広報ひらかた

新春対談企画

宇宙飛行士 毛利 衛さん
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枚方市長 伏見 隆
in 日本科学未来館

もうり まもる

 宇宙飛行士・科学者。1985年8月、搭乗科学技術者として宇宙飛行士に選定される。1992年にスペースシャトル「エンデバー号」に日本人科学者として初めて搭乗。2000年2月にも「エンデバー号」に搭乗運用技術者として搭乗。同年10月に日本科学未来館初代館長に就任。以降宇宙を含む広い分野における最先端科学技術を社会に伝える場づくりおよび将来日本の科学技術を担う人材育成に取り組む。2021年4月からは同館名誉館長。宇宙飛行士や南極・深海探査の経験などで得た知見をもとに、地域貢献活動やSDGs達成に向けた先端科学技術の普及と共に研究者の育成に努めている。北海道余市町出身。76歳。


一人一人の挑戦がまちの未来を変える

 2025年4月、いよいよ大阪・関西万博が開幕します。私たちはこの万博で何を感じ、この経験をどのように生かすべきなのか。そして、理想の未来の実現に一人一人が挑戦するためには何が必要なのか。長きにわたり「未来」「科学」「社会」に挑戦してきた宇宙飛行士の毛利衛さんとの語り合いから考えます。

 問合わせ先、広報プロモーション課 電話841-1258、ファクス846-5341


対談会場

日本科学未来館
東京都江東区青海2ー3ー6

 先端の科学技術を体験できる国立のサイエンスミュージアム。ロボットや人工知能、生命科学、地球環境、宇宙など、私たちの未来にかかわる科学技術をテーマに、大人から子どもまで楽しむことができる。科学と社会をつなぐ「科学コミュニケーター」が、展示フロアで対話や実演を行っている。

展示案内など詳細はこちら▶︎


万博は人口減少社会の在り方を示すチャンス
市長

 本日はよろしくお願いします。ついに大阪・関西万博が4月に開幕します。大阪での開催は1970年以来55年ぶりですが、毛利さんは当時おいくつでしたか?


毛利

 22歳、大学生でしたね。子どもの頃から宇宙に行くのが夢で、大阪万博はアポロ11号が月面着陸した翌年でしたから、アメリカ館に月の石が展示されると聞いて、北海道から当時学生専用の格安飛行機切符で行きました。本当にたくさんの人がいて、行列の先に行くために汗だくになりながら走ったことを覚えていますね。結局、月の石は3時間待ちの行列で断念しましたが、館内にあった月着陸船はなんとか見ることができました。あまりにも大きく、NASAの技術力の高さに、日本にいてはまずいと思いました。


市長

 将来宇宙飛行士になる方が月の石を見られなかったとは!


毛利

 けれども、そのあと月の石は宇宙飛行士になってからNASAの施設で何度も見ましたよ。市長は大阪万博には行かれましたか?


市長

 行ったらしいものの当時2歳でしたので残念ながら記憶になくて。でもテレビなどで話はたくさん見たり聞いたりしてきたので、万博記念公園に行くと、映像で見た建物や展示がかつてここにあったんだなと想像しますね。だから、今回はすごくワクワクしています。

 先日、大阪・関西万博の会場を見学して大屋根リングの上にも登りました。さまざまなパビリオンが完成を目前にしている現場をリングの上から見渡すと、期待に胸が膨らみました。今回開催される大阪・関西万博について、毛利さんはどのように感じていますか?


毛利

 世界に対して日本の存在感を高めるため、世の中から期待されていると思っています。今、日本では人口減少という深刻な課題があります。世界全体では増加していく国も多いのですが、多くの先進国では今後、何もしなければ減少が進むでしょう。なかでも日本の人口減少は急激です。だからこそ今回の万博は人類にとってこれからの持続的な最先端社会の在り方をモデルとして世界に示すことができるすごく良いチャンスなんですね。そういう意味で、今までと違う万博になると思います。


いま必要なのは
人類の枠組みを超えた「未来智」
市長

 実は大阪・関西万博には、毛利さんの影響を受けている点があるそうですね。パビリオンなどは「いのち輝く未来社会のデザイン」というテーマに沿って作られていますが、開会式などの催しには「その一歩が、未来を動かす。」というコンセプトが掲げられています。このコンセプトは東京パラリンピック閉会式も手掛けた万博催事企画プロデューサーの小橋賢児さんによるもので、「多様な環境の中で命が紡がれてきたのは、個の挑戦が、個の一歩があってこそ」という毛利さんの言葉に感銘を受けて生まれたものだとお聞きしました。大阪・関西万博が4月に開幕します。大阪での開催は1970年以来55年ぶりですが、毛利さんは当時おいくつでしたか?


毛利

 小橋さんとは一度ラジオで共演したことがありまして。スペースシャトルから夜の地球を見たら、海洋以外の陸地にはどこにもたくさんのオレンジ色の光がネットワーク状に輝いていました。そのひとつにズームインすると、例えば大阪市の大きな光の塊につながる枚方市の光の集団があって、もっとズームインすると地域の光が、さらには目では見えませんが家の明かりがあって、そこでは家族一人一人の顔が見えるんだろうなと思いをはせたことなど、いろいろお話ししました。

 私は宇宙飛行2度目のミッションでは立体地形図を作成するための地球観測を行いました。地球をずっと見続ける仕事で、地球には人類以外の多様な生命があって、種が持続的に生き延びるためには個々の生命がどれだけ新しい環境に挑戦して乗り越え、種の生存につなげられるかにかかっていると、宇宙から俯瞰しながら感じたのです。だから、人間社会も個人が幸せを感じなければ、本当の意味での幸せな社会にはならないだろうなと。小橋さんは、私が宇宙から見た視点をヒントに、人類社会の大きな方向性を「その一歩が、未来を動かす。」という催事コンセプトに込めたのだと思います。


市長

 大きな宇宙から地球全体を見られて、むしろ対極にある小さな人間の幸せの大切さを実感されたんですね。


毛利

 すべての人が幸せに生きるために、健康や社会の便利さ・快適さを保つことを科学技術で可能にするにはどうすればいいかという課題は世界共通ですが、個人が望むのは、心の安定や家族を大切にした今の生活をどうやって続けていくかということかもしれません。その点で日本は安定して豊かで、文化力が高いという認識が世界に広まっています。そのことを確かめるために、これまでたくさんの国のリーダーや日本の自治体の首長が日本科学未来館を訪れ、日本の文化にもなっている最先端科学技術とそれがもたらす未来社会の姿を視察しています。


市長

 国と自治体、規模は違いますが一人一人の幸せを大切にしたいという気持ちは同じですね。


毛利

 では、どうすれば個人を幸せにできるのか。それは科学技術ばかりではなくて、芸術や技術、教育などさまざまな智恵を、人類という枠組みを越えて未来の地球のために生かしていくことです。その智恵のことを私は「未来智」と名付け、館長として20年間ずっと訴えてきました。個人といっても自分や家族のことばかりを考えるのではなくて、家族が幸せであるためには地域の人たち、そして、地域の自然の中にいるすべての生き物と良い関係を築く努力をするということです。

 地球上の動物や植物、微生物など、すべての生き物の遺伝情報は同じ4種類の塩基でできており、人類だけが特別ではないのです。また、日本では人口減少が進んでいますが、世界規模では人口爆発で2050年過ぎには100億人に達すると考えられています。そうすると地球に住める限界も見えてきました。私たちは自分が住んでいる地域だけでなく他の地域・国とも空気や水でつながっている、運命共同体であることを意識すべきです。つまり、地球生命全体を個人が認識しないと、私たちの未来の生活はうまくいかない、という考え方です。


人と人とのつながりは
信頼あってこそ
市長

 「未来智」とは、自分以外のすべての生き物と良い関係を築く努力をするという考え方なのですね。今後の自治体としてのまちづくりにとっても大切な視点だと思います。


毛利

 未来の地球のことを考えるとき、自分だけ、自国だけ、人類だけという視点にとらわれないことが大切です。そのためには多様性を認め、さまざまなつながりを作っていくことが必要です。これからの行政に求められる大切な役割なのではないでしょうか。


市長

 そうですね。枚方市民の幸せのために課題解決に取り組んでいますが、一方で、環境問題や人口減少問題など、ひとつの自治体だけでは解決が難しい課題が増えています。


毛利

 そこで必要になるのが個々同士のつながりだと思います。では、つながりをどうやって作るのかが次の課題ですよね。いろいろな世代を横だけでなく縦でもつなぎ、個々がコミュニケーションをとれる仕組み作りの工夫が必要です。


市長

 毛利さんは著書で「科学コミュニケーション」を大切にされてきたと書かれています。科学の世界でのコミュニケーションの大切さとはどういったものなのでしょうか。


毛利

 最初の科学コミュニケーションは、国の予算で研究している研究者が社会の中でどういう役割を果たしているのかなどを市民に伝えることがスタートでした。でも、研究者は、市民に対して「自分の研究は価値があってすごい」という知識をただ言うだけで、結局うまく伝わりませんでした。そこで、市民と研究者の間に立ち、科学をわかりやすく伝えることを専門にした「科学コミュニケーター」を育成する取り組みが、日本科学未来館ができたときに国の施策としてスタートしたんです。


市長

 専門用語などを使った難しい言葉での説明は、漠然としたすごさは感じるものの本質まで理解するのは難しいですからね。そんな専門的知識を、どんな人にも分かるように伝えるのが科学コミュニケーターの役割というわけですね。


毛利

 ところが、知識をどれだけ分かりやすく伝えても、信頼がないと人々の行動までは変えられない。それが身に染みたのが東日本大震災の時でした。現地にボランティアで派遣した科学コミュニケーターたちが、関東圏や原子力発電所の周辺地域の住民から「水道水は飲めるのか」と聞かれるので、放射能の数値を測って安全性を伝えたのですが、結局は使おうとしてくれないのです。住民が本当に知りたいのは知識ではなく、その知識が信頼できる人からのものなのかどうかだということに気づかされました。これをきっかけに、育成していくコミュニケーター像を、知識を伝えるだけではなく、人としていかに信頼を持ってもらえるかという点を重視するよう方針をガラッと変えました。


市長

 市政運営も、まず信頼されるべきであるというところは共通しています。人と人とのつながりをつくる役割を果たせるのは、市民に信頼されてこそですね。


ワクワクすることは
人間の生命の本能
市長

 ここまで、一人一人の幸せについて考えてきましたが、自分が理想とする枚方の未来を実現するために何が必要なのか、根源的に問う機会になりました。


毛利

 すべての人が幸せな状態は理想かもしれませんが、全員が100%、幸せになることは難しいというのが現実です。でも、市長はまさに枚方市民にとっての最適解とは何かを考え実行する存在じゃないでしょうか。


市長

 はい。市役所の仕事は、市民一人一人が幸せになるための基盤を作ることだと思っています。やっぱり市民の笑顔を見る時が一番うれしいですね。大人も子どもも一人一人が違う夢を追いかけることができるための支援も、市の役割の一つではないかと考えています。


毛利

 枚方にいたからこそこんな体験ができた、飛び立てたと感じることができれば、枚方をルーツに思える何かが生まれる。そうなればまちとしてすごく素敵ですね。


市長

 自分が住むまちに愛着を持ってもらうためには外の世界を見てもらいたいと思っています。外からと中からでは良い面も悪い面も見え方が全く違うはずです。例えば、東京に行けばより広い世界が見えるだろうし、海外に行けばさらに広がって、宇宙に行けばもっともっと広がる。毛利さんはほとんどの人が経験していない「地球の外」に行かれた方なので、宇宙に出たから地球の良い面も悪い面も見えたのでしょうね。


毛利

 宇宙から地球全体、さらに個々の生命まで考えるようになりましたね。私は北海道出身で、地元の北海道大学で働いていたのですが、子どもの頃からの宇宙に行きたいという夢を追いかけるために、大学を辞めてNASDA(現JAXA)に入りました。なので、外に出て行った側です。当時、安定した職を変える人は非常にまれでした。


市長

 慣れた環境から飛び出すというのは、いろいろなことを手放さなければならないし、不安もつきものですよね。それでも挑戦しようという原動力は、どこから生まれたのですか。


毛利

 ワクワクすることじゃないかな。言葉では説明できないけれど、人間の生命としての本能が「やったことのないことをしてみたい」と自分自身を駆り立てるのです。


市長

 毛利さんのように子どもの頃に夢ができて、たくさん知りたいという気持ちが生まれるのは大事ですね。枚方市では、大阪・関西万博に市内の小学生を招待します。感受性が強い子どもたちに、最先端が集まる万博でいろいろな体験をしてもらって、夢を見つけるきっかけの一つになればと思っています。さらに、枚方ならではの自然や歴史・文化、大学、企業の技術力など市が持つ魅力を、多くの人に見て、触れて、味わってといった、さまざまな体験をしてもらう「ひらかた万博」という取り組みを2年前から続けています。これからもいろいろなことに出会う機会を提供して、子どもだけでなく大人もワクワクを感じて、やりたいことにたくさん挑戦してもらいたいですね。


多様性を認め合う
まちづくりを

市長

 では最後に、市民一人一人が幸せになるために行政ができることとは何か、改めて毛利さんの考えをお聞かせください。


毛利

 多様性を認めることですね。多様な一人一人が幸せを追求していくことが、まちの未来、社会全体の幸せにつながっていくと思います。


市長

 なるほど。市民の多様性や主体性を尊重することをスタートにして、大阪・関西万博をきっかけに自分の幸せに向かって挑戦する人が枚方からたくさん生まれてほしいです。そして、今後いろいろな場所で活躍して、未来の枚方だけでなく日本や世界を幸せに してくれたらうれしいですね。


毛利

 期待していますよ。私は枚方に行ったことがないので、今回インターネットでいろいろ調べてみたんです。「百済寺跡」という場所を取り上げている動画を見ました。百済王氏が建てた1000年以上も前の寺の跡が特別史跡として残っているんですね。これは日本にとってすごく大切なことなので、もっともっと伝えていってほしいですね。

 なぜかというと、万博は未来しか見せないからです。でも、未来はおのずとやってくるし、今の知識で空想するしかないもの。人工知能でも未来予測ができる現代に、枚方には百済寺跡という日本の歴史の本物があるんですよ。過去とつながって初めて現在があるように、私達の未来もまた現在の延長であると示すことも、我々日本人の心にはすごく大切なんです。


市長

 「百済寺跡」のような文化財をはじめ、実は枚方にも素晴らしい資源や財産がたくさんあるということをこれからも伝えていきたいと思っています。


毛利

 工夫すれば興味を持ってもらえると思います。歴史はただ史実を伝えるだけでなく、伝える人自らが史実を紡いで、物語として伝えていくことで人の心をつかむんです。動画に出演されていた職員は、枚方の遺跡が好きでたまらないのでしょうね。自らがワクワクしながら話す様子も含めて、とても面白かったですよ。いつか枚方市に行きたくなりました。


市長

 ぜひお越しください。その時はブラリとご案内します!


館内展示を市長に解説する毛利さん

刻々と変わる地球の様子を映し出す、日本科学未来館のシンボル展示「ジオ・コスモス」前で


2025年大阪・関西万博

4月13日~10月13日

 「いのち輝く未来社会のデザイン(Designing Future Society for Our Lives)」をテーマに、20年ぶりに日本で開催される国際博覧会。会場となる大阪・夢洲には国内外のパビリオンが出展する。本市も、府内の自治体が連携して大阪の魅力を国内外に発信する催事「大阪ウィーク」や、万博首長連合の会員自治体が共創する催事「LOCAL JAPAN展」への出展を予定している。

提供:2025年日本国際博覧会協会


2度の宇宙飛行

史上初の宇宙から生中継で授業も
◆1992年9月(1回目)

 スペースシャトル「エンデバー号」内で多くの宇宙実験を行いながら、出身地・北海道余市町の子どもたちに向けリンゴなどを使って無重力の不思議などを伝える「宇宙授業」を初めて生中継で実施。

▶宇宙授業中の様子

画像提供:JAXA/NASA


◆2000年2月(2回目)

 人が住む地球陸地の95%の3D立体地形図データを観測したほか、日本の高精細TVカメラで地球観測を行った。

▶地球観測用カメラを持つ毛利さん

画像提供:JAXA/NASA


毛利さんも見た!
枚方に古代都市!?

 市長が文化財課職員と百済寺跡の謎に迫る動画を市公式YouTubeで公開中