広報ひらかた

市民登場 No.741

心の印象を描き続ける抽象画家

吉田 絵美さん

◆よしだ えみ 近畿大学文芸学部芸術学科でガラス造形を学ぶ。昨年12月、作品「茫洋」で第48回近代日本美術協会展内閣総理大臣賞受賞。船橋本町在住。34歳。


 陶板や七宝焼のような立体感があり、きらきらと発色した抽象画。砂やビーズが入ったものや光沢のあるマニキュアのような珍しいアクリル絵具を使い竹串やペインティングナイフを使って描かれている。「描きたいものを追求したら筆ではなく竹串がよかったんです」と楽しげに話す。菅原生涯学習市民センター勤務の傍ら、年間50作品を描く多作ぶり。描き出した瞬間にはすでにゴールが決まっていて忘れないうちに描き切る。大学でガラス造形を専攻したが「浮かんだイメージをすぐに形にできる絵のほうが向いている気がしています」

 親の転勤で幼少期から京都、横浜、千葉、富山、大阪と移り住み土地によって常識が変化することを経験し生きづらさを抱えてきた。大学時代や働き始めた頃には不安にさいなまれることもあったが、描くことで安心し救われた。作品は恐怖感と誤認してしまう内なる熱量を形にし、自身の心の印象として描いている。「絵を描くことは生きることそのもの。何を描いたのか言葉で説明するのは難しいけれど、どの作品にもそのときの私が存在しています」

 昨年、近代日本美術協会展で応募総数469点の中から内閣総理大臣賞を受賞。細密な模様を繰り返し描く手法に抑制の効いた表現が高く評価された。これまで数多くの公募展で受賞を重ねてきたが「心配し支えてくれた家族や周りの人に今回の受賞をいちばん喜んでもらえていることがうれしいですね」

 夢は自身の美術館をつくること。コロナ禍の昨年はベテラン作家が画廊やデパートでの出品を控える中、果敢に出展し新たな出会いや縁が生まれ「チャンスをつかむ一年でした」と振り返る。「作品を好きだと言ってくれる人が1人でも増えれば。楽しんで見てもらえるだけで十分幸せです」