広報ひらかた

市民登場

No.735

陶芸家 富田美紀子

◆とみたみきこ

 京都市立芸術大学工芸科陶磁器専攻卒業。東京国立近代美術館工芸館や岐阜県美術館での展示のほか、アメリカや香港など海外でも作品を発表。村野本町在住。49歳。


 立体芸術に興味を持ち、大学では陶磁器を専攻した。卒業後、美術教員になるも退路を断ち、20代半ばで市内に工房を構えて作品づくりに没頭する。「土を活かすことより自由な発想を大切にしてきました」。平成21年、東京国立近代美術館工芸館の企画展「現代工芸への視点 装飾の力」に招かれ出展。その斬新な作風にギャラリーや美術館から次々と依頼が舞い込み始めた30代半ばに父親ががんに。母親の介護と幼い娘たちの育児も重なった。「苦しくても諦めず地道に創り続けたことが今につながっています」。平成29年にギャラリーからの依頼で念願の70センチ超えの大作(写真)に1年かけて取り組み、昨年アメリカでの展示で買い手がついた。「強い生命力を感じると評価されました。国内外での展示をきっかけに多くの人と出会いが生まれる。工房にこもりがちとなる私が外の世界とつながれる嬉しい瞬間ですね」。

 国際線旅客課勤務を経て、料理を学ぼうと辻学園の門を叩いたのは26歳のとき。卒業後は「料理を教える側でありたい」と講師の道に進んだ。当時は結婚を機に退職する女性が多い中、「自分だからこそできる仕事を一生続けたい」と出産後に職場復帰をした第1号となった。仕事と子育て両立の忙しさに直面した30代の記憶は、ほぼない。保育園に車で迎えに行ったのに子どもを乗せずに帰ってきてしまったことも。「忙しかったけれど職場のサポートに感謝しかありません。私の礎を築けました」。独立したのは、もっと多くの人に料理の魅力を発信したかったから。仕事で得た縁がつながり、子ども向けの食育活動や地ビール開発のためのホップ栽培、著書出版がきっかけの器と料理のコーディネートなど活動は幅広い。いくつもの柱は、目の前の仕事を一つ一つ誠実に取り組んできた証だ。

 2年前からは陶芸教室の生徒の声を受け、地元でも発表の場を得ようと枚方工芸会に所属。ガラスや彫金など他分野の作家と情報交換しながら土以外の素材を組み合わせた作品に挑戦中だ。「陶芸の新たな領域を目指したい。これからも創作に妥協なしです」。