広報ひらかた

市民登場 No.727

かかとのない靴下「つつした」を開発

中江 優子さん

◆なかえゆうこ 昭和8年創業の老舗繊維メーカー・樋口メリヤス工業株式会社の6代目代表取締役。春日元町在住。53歳。
 売上の一部を新型コロナ対策への寄附に充てる寄附付き商品「和紙糸3Dニットマスク」を販売中。

 かかとのカーブがない筒状の靴下「つつした」はどんな足のサイズ・形の人にも合うよう伸縮性の糸で編まれ、肌が当たる面には天然繊維が使用されている。購入者からは「もう他の履かれへんわ」と感想が届く。誕生した当初、常識を覆す形状に同業者たちは「ありえない」と口をそろえたが、今では月3000足が全国で販売される大ヒットに。「自分でも最初はありえないと思いましたよ」。
 学生時代は世界を股に掛ける仕事に憧れ、大学では外国語学部を志望したが入学できず経営学部で「なんとなく」学んだ。2人の姉が先に嫁いだため、卒業後は「仕方なく」父の会社に入社した。「自分で人生を歩んでいる感覚がなくて、そんな自分が本当に嫌でした」。仕事に向き合えない20代を過ごした。転機が訪れたのは14年前。多額の負債を抱えた会社が倒産の危機に陥った。「祖父の代から70年以上続いた会社をなくしてしまっていいのかって。スイッチが入りました」。先代から会社を継ぎ社長に。下請けから直接販売へ方針転換し、「お客さんの声を第一に」を社訓に掲げた。そんな中、「かかとがない靴下が欲しい」という要望が。「なぜそんなものが欲しいのか分からなくて、ずっと気になっていて」。試しに作ってみると、かかと部分の余りやサイズが合わないといった悩みを解消できると気付いた。その後、ある百貨店の仕入れ担当者が目を付けたことをきっかけに大ヒット商品へと成長した。「お客さんの声を聞き続けた結果です」。
 夢は「つつした」が世界中に広がること。アメリカで経営を学ぶ長男と、企画やデザイン考案などで店を手伝う次男に託したいと考えている。「将来、世界中の人がつつしたを履いて喜んでくれたら最高です」。かつては諦めた世界へ思いをはせる。