広報ひらかた

特別対談 ロバート キャンベルさん×枚方市長 伏見 隆

一人一人の「生きる」を大切にするまちへ

 令和最初の広報ひらかた市長対談は、あのロバート キャンベルさんが登場。館長を務める東京・立川市の国文学研究資料館を2月10日に伏見市長が訪ね、一人一人の多様性を大切にするまちづくりについて大いに語り合いました。

伏見隆市長
ロバート キャンベルさん

 日本文学研究者で国文学研究資料館館長。近世・近代日本文学が専門で、特に19世紀(江戸後期~明治前半)の漢文学および関連の深い文芸ジャンル、芸術、メディア、思想などに関心を寄せる。テレビでMCやニュースコメンテーターを務めるほか新聞・雑誌の連載、書評、ラジオ番組出演・企画など様々なメディアで活躍中。ニューヨーク市生まれ。ハーバード大学大学院東アジア言語文化学科博士課程修了。主な編著に「井上陽水英訳詞集」など。

対談場所は 国文学研究資料館

東京都立川市緑町10-3 電話 050-5533-2900 FAX  042-526-8604

 日本文学の基盤的な総合研究機関として昭和47(1972)年に創設。およそ20万点におよぶ日本文学の原典資料・貴重古典籍のほか、国文学に関する書籍や専門雑誌、絵画など幅広く所蔵している。平成29(2017)年からロバート キャンベルさんが館長を務める。

在原業平(ありわらのなりひら)は稀代のプレイボーイ

市長 今日はお忙しい中ありがとうございます。昨年の大晦日、あの国民的お笑い番組に出演されていたのをテレビで観てびっくりしました。

キャンベル いやーもう、お恥ずかしい限りです。

市長 今日の洋服も素敵ですね。ご自身でデザインされているとか?

キャンベル この服は違うんですが、もともとファッションが好きでユニセックスで着られる服飾メーカーとコラボしたデザインもあります。

市長 本当に幅広いジャンルでご活躍ですね。今日は枚方のまちづくりについて、キャンベルさんならではの視点からお話しいただき、新たなヒントが見つかればと思っています。

キャンベル よろしくお願いします。せっかく来ていただいたので資料館の展示室をご案内します。

市長 うわー素晴らしい。あれ?これは伊勢物語じゃないですか。いっぱいありますね。

キャンベル はい。伊勢物語は日本最古の歌物語と言われていまして、当館には江戸時代までの約1200点におよぶ写本があります。江戸時代の本を見ますと切り取られている箇所がありましてね。「社会の中で生きること」を教えるための教材としても使われていたようです。

市長 主人公とされている在原業平は枚方にあった惟これたか喬親王の別荘「渚院」で桜や、天の川のほとりで七夕にまつわる歌を詠んでいるんです。

キャンベル 交野ケ原に出掛けてはよく狩りをしていたようですね。

市長 そうなんです。ところで業平は、かなりのプレイボーイだったらしいですね。

キャンベル はい(笑)。旅の先々で120人もの女性と契りを結んでいて、その中にはなんと、90代の人もいます。

市長 それはすごい。

キャンベル でも二股を掛けるようなことはなく(笑)、出会うたびに一人を一生懸命愛していたようです。そんな優しさに多くの女性が惹きつけられたのでしょうね。

市長 枚方で恋をしたエピソードもあるかもしれませんね。


狩り暮らし たなばたつめに宿借らむ 天の河原に我は来にけり

狩りをしていたら日が暮れてしまった。今夜は織姫様に宿を借りよう。私は天の川原に来たのだから。


在原業平は小野小町らと並び六歌仙の一人に名を連ねる、平安時代中期の歌人。この歌は文徳天皇の第一皇子、惟喬親王と交野ケ原(天野川流域の枚方~交野一帯)を訪れた時に天野川を七夕伝説になぞらえたもので、古今和歌集や伊勢物語などによって広く世に知られるようになりました。伊勢物語には、枚方にあったとされる惟喬親王の別荘「渚院(なぎさのいん)」で花見を楽しむ場面も綴られています。


文化の開放が多様性につながる

キャンベル いま私たちが作っているデータベースにアクセスすれば業平の歌の原文を見ることができますよ。さまざまな古典籍(明治時代以前の書籍)を世界中の人々にインターネットを使って無料で見てもらいたいとデジタル化を進めていまして。例えば「犬」でもなんでも、調べたい言葉を入力するだけで関連書籍が出てきます。中には画像付きのものもあり、現在は約13万タイトル数百万冊を収納しています。3年後には30万タイトルを目指しています。

市長 素晴らしい。伊勢物語の原文を見ながら枚方の歴史を学ぶなど学校の授業でも使えそうですね。

キャンベル その通りです。私は文部科学省の中央教育審議会委員として学習指導要領にも携わっていまして、ここでは「主体的・対話的で深い学び」を実践するため「アクティブラーニング」を柱の一つにしています。地域でフィールドワークを行うことで、本の内容と実際の景色の違いを体感できます。日本の書籍は絵がたくさん載っているので地域性の違いもふんだんに味わえますよ。

市長 教科書に載っていることはほんの一部ですからね。枚方でも教育現場にICT環境の整備を進めているところで、先行的に全生徒へタブレットを配布した中学校もあります。校舎の枠に留まらない深い学びの機会を子どもたちに与えることが大切ですね。

キャンベル こうしたデータベースを通して、研究者だけでなく一般の人、身体的障害があって出歩くことが困難な人、日本語を書くことができない海外の人にまで文化を開放していくことが大切です。言語や識字能力を超える取り組みが「多様性」につながると思います。


歴史を視覚や嗅覚で感じる

市長 ところでキャンベルさんは「くらわんか舟」をご存知ですか?

キャンベル 十返舎一九の「東海道中膝栗毛」に出てきますね。

市長 はい。江戸時代に宿場町だった枚方は淀川を往来する三十石船の中継港でもありました。枚方に近づくと小舟が寄ってきて、売り子が「食らわんか!」と大声の河内弁で餅やお酒を売りつけていたんです。ちょっと品は良くないかもしれませんが(笑)、退屈しがちな船旅で名物になっていたようです。

キャンベル 楽しいじゃないですか。

市長 2年ほど前、淀川を愛する市民らによるグループが三十石船で売られていたお酒をよみがえらせようという取り組みを始めましてね。クラウドファンディングで資金を募り、枚方のお米を使って交野の酒造会社が作りました。甘口で飲みやすく、好評で販売しています。

キャンベル  面白い取り組みですね。私も同じ2年前に、三越の日本橋本店と銀座店のデパ地下をジャックして江戸料理フェアをしたことがありますよ。17~19世紀の日本は世界に類を見ないくらい料理本が出版されていましてね30品ほど再現して作りましたがすごい人気でした。こうした取り組みは東京より地方でやると、もっと興味深いものになると思いますよ。

市長 なるほど。目の前にある日本酒がかつて淀川で売られていたものの復刻だと知ると、地元のことをもっと知りたくなりますよね。

キャンベル 歴史は文字からの情報だけでなく視覚や嗅覚で感じることも大切ですからね。私たちは「文献観光資源学」という郷土研究のプログラムを進めていまして、例えば、先ほど名前が出た「東海道中膝栗毛」は、地域の魅力あるストーリーを十返舎一九が根拠を持って掘り下げているんですね。こういった各地に眠る文献に書かれた内容をあぶり出して観光資源にまで持って行きたい。人々が地域の歴史に興味を示すための大切な入り口となると考えています。

市長 土地の風土とそこで生まれたものをどうやってつなげていくのか、これからの観光の考え方に関わってきますね。

キャンベル 地域に伝わる食や食べ方といったものは書物とすごく相性が良いです。現代は人々の興味や関心がどんどん更新されていて、ほんの10年前と比べても自治体として取り組むことができる選択肢が何十倍にも増えています。

市長 宿場町として賑わった枚方では、かつての街道(京街道)沿いで毎月第2日曜に「枚方宿くらわんか五六市」というまちなか市を開催していまして毎回8000人以上が訪れています。もう13年くらいになりますが、今や市内随一と言える人気イベントです。おかげで枚方宿という歴史の1ページが認知され、今を生きるようになりました。市民が「私は枚方に住んでいるんだぞ」と胸を張って言えるような取り組みをもっともっと進めていきたいですね。


福岡のオープンな土地柄が大好き

市長 ご承知の通り、今やどの自治体も人口減少が進み、運営が厳しくなっている現実があります。国連のSDGsという言葉も浸透してきている中、枚方市としても持続可能な発展を模索しているところです。枚方は大阪と京都のちょうど真ん中にあり、歴史的にも交通の要所でした。地域の歴史や文化を大事にしながら多くの人々が交流できるような街にしていくことが重要だと考えています。

キャンベル 中世の頃と比べると現代はさまざまな地域からモノや風景、食、無形の文化資源が混じり合っている時代です。私は35年前に九州大学文学部の研究生として来日し、11年間福岡に住んでいました。福岡は古くから中国や朝鮮半島と交流があり、中世でも京や江戸より大陸の方を向いていました。決して排他的にならず、人の力を取り込む知恵や感性が育まれていたんですね。そうしたオープンな土地柄が大好きで、私が今でも日本にいるのは福岡のおかげと感謝しています

市長 枚方も大陸とのつながりが深いんですよ。百済国の王族の末えいが8世紀後半に建てた「百済寺」跡は全国初の史跡公園で、大阪府内に2つしかない国の特別史跡にも指定されています。現在再整備工事に取り組んでいまして、令和5年完了を目指しています。また、漢字や論語を日本に伝えたという王仁博士の墓とされた「伝王仁墓」も枚方にあります。

キャンベル いわゆる渡来人ですね。

市長 そうです。伝王仁墓をきっかけに市民交流が深まり、王仁博士が生まれたとされる韓国の霊岩(ヨンアン)郡と友好都市になりました。毎年11月には郡守さんたちがお墓の参拝のため枚方を訪れています

キャンベル それは素敵ですね。ぜひ続けてください

市長 豊かな歴史を市民が大切に守り続けて海外との交流が生まれるのは素晴らしいことです。これからもさまざまな歴史を深く掘り下げていくことで新たな人の交流が生まれると思うと楽しみです。

キャンベル そうですね。福岡のおかげで今の私があるように人の潜在能力を見いだし、展開できる環境が整って初めて、多様性ある共生社会ができるのではないでしょうか。

市長 例えば、少子高齢化と聞くとマイナスのイメージで捉えられがちですが、これまでのまちの在り方を見直し、変革する絶好のチャンスでもあるわけですよね。

キャンベル 社会の中にはさまざまなハンディを持って生きている人々もたくさんいますが、それは見方次第です。その人だからこそできることが必ずある。誰もが生き生きと空気を吸って暮らせることは大前提で、あらゆる人がグイグイとまちを変えるために貢献できる機会を作ることがとても重要だと思います。

市長 一人一人が社会に役立っていると実感できること、これこそ枚方市が目指す多様性社会の姿と一致します。


本当の自分を隠す必要のない社会に

キャンベル 伏見市長はLGBT支援の取り組みを積極的に進めているとお聞きしました。当事者の一人として感謝申し上げます。LGBTについては数年前まで、いわば星が一つも光らない真っ暗な夜空でしたが、今は東京都をはじめ各地で支援するための条例が制定され、点々と星座が見えるくらいにまで灯り始めています。ある調査では7割以上の日本人がLGBTの人の社会参加に積極的であることも分かっています。市長がLGBTの支援を決めたきっかけは何だったのですか?

市長 誰もが住みやすいまちにしたいという思いからです。約10人に1人と言われるLGBTの人が息苦しくなってしまう世の中ではいけませんから。

キャンベル 法律的な面では国レベルで動かないとまだまだ足りないという状況ですが、町内や会社、学校といった地域社会で過ごす人に対して自治体が支援の姿勢を示してくれることは何にも代えがたいバックアップで、とても勇気が出ます。

市長 キャンベルさんにそう言っていただけると嬉しいです。

キャンベル LGBTの多くの人は、隠さないと生きていけない状況です。本当の自分を隠すことは辛いことです。しかしそれ以上に問題なのは、隠すことで家族や地域、会社といったその人が存在する場所で、その人の社会的な生産力が止まってしまうことです。だからこそあらゆる場面でLGBTに対して平等であることは本当に不可欠なことなのです。

市長 市の姿勢を目に見える形にするため、昨年3月に支援を約束する「ひらかた・にじいろ宣言」を行い、一方または双方が当事者であるカップルがお互いを人生のパートナーであると宣誓したことを市が証明する制度もスタートさせました。現在10組(4月16日現在)に証明書を発行しています。また、LGBTを理解し、当事者を支える人「ALLY(アライ)」を増やす取り組みも進めています。

キャンベル 難しいかもしれませんが、宣言を出したことで社会がどう変わり潤っているのか評価指標を立ててモニタリングを行ってほしいですね。例えば地域の市民団体などを通して当事者を募り、パートナーが病気になったときに身内として手術の同意書が書けたなど、誰が見ても感情移入できる具体的なエピソード集をまとめるなどして、制度ができたことによる世の中の変化を発信すれば、意義が多くの人に伝わると思います。その中に、社会の中で当事者がどのような役割を担い、役立っているのかも分かるようにしていただきたいですね。

市長 アドバイスありがとうございます。他の自治体に先駆けたモデルになりますね。少しずつ星空が明るくなるよう、しっかり取り組んでいきます。


文化芸術に触れてなりたい自分見つけて

市長 枚方には淀川と並行するように、大阪と京都を結ぶ京阪電車が走っています。ちょうど中間にある枚方市駅は特急も止まり、1日9万人以上が利用する、いわば枚方の「顔」です。現在、駅周辺の13ヘクタールにおよぶ大規模な再整備計画が進行中で、来年9月、駅の北側に約1500席の大ホールを備えた総合文化芸術センターがオープンします。

キャンベル それは楽しみですね。

市長 今まであった市民会館の老朽化が激しく、新たなホールの建設は長年の悲願でもありました。南側には枚方が発祥の地である蔦屋書店を中心としたT―SITEが「まちのリビング」をコンセプトに多くの人を呼び込んでくれています。

キャンベル 駅の近くなら人が集まるコミュニティの拠点になりますね。

市長 枚方は市民の文化芸術活動が盛んでセンターの誕生を心待ちにしてくれている人がたくさんいます。文化芸術に存分に触れてもらって、将来なりたい自分を見つけることができる場所になれば最高ですね。キャンベルさんにも枚方へお越しいただき、今日お聞きしたことをセンターで市民に向けてぜひともお話しいただきたいです。

キャンベル ぜひ!私は2025年「大阪・関西万博」のシニアアドバイザーでもありますので、大阪に行く機会はますます増えると思います。枚方の皆さんにお会いする日を楽しみにしています。

市長 ありがとうございます。これからも一人一人の「生きる」を大切にした取り組みを進めていきますので、枚方を見守っていてください。


 枚方市総合文化芸術センターは枚方市駅北口徒歩5分。地上5階、地下1階。大ホール1468 席、小ホール325 席、イベントホールやギャラリーも備え、広々とした芝生広場も。令和3 年9月開館予定。

キャンベルさんサイン入りクリアファイル抽選で3人にプレゼント

 はがき、ファクス、市ホームページの応募フォームに住所・氏名・電話番号、記事の感想を書いて〒573-8666市広報プロモーション課へ。5月15日必着。1人1通。当選者の発表は賞品の発送をもって代えさせていただきます。
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