広報ひらかた

市民登場 No.753

アコースティックギター職人

有満 慎一さん

◆ありみつ しんいち
 プログラマーとして勤務後、老舗アコースティックギター製造会社ヤイリギターに転職。ミニギター部門で責任者となり5年勤務。29歳の時、アリミツギタークラフトとして独立。田口在住。50歳


 矢井田瞳、河口恭吾。海外では映画「プラダを着た悪魔」のテーマ曲で知られるケイティー・タンストールなど著名なアーティストのギターを手掛けてきた。「アーティスト本人からじっくり話を聞き、求めている音を理解してから製作しています」

 パソコンが一般的でない時代に高校生ながら独学でプログラミングを始め、専門学校卒業後にプログラマーとして就職。休日にはギター教室に通ったが、「元々、物作りが好きだったのでギターを作ってみたくなったんです」。ギター専門誌で素人ながら一人でギターを作った人の記事を目にし、一念発起し自身も1年かけて、のこぎりで切り、湯に浸けて木を曲げるなどしてギターを完成させた。本気でギター職人になろうと会社を辞め、24歳の時に岐阜にある老舗アコースティックギター製造会社の門を叩いた。社内は分業制だったが、ミニギター部門に配属されたおかげで、入社2年後には材料の調達から販路まで担当できたことは独立後も役立っている。職人気質の先輩から木工技術を吸収し「誰よりも失敗を重ねたことで成長できました」と振り返る。

 独立して20年。年々こだわりが増え年間最大10本ほどしか製作していない。大切にしているのは音の共鳴や振動伝達を考えたギター作り。一般的なギターはボディの表板は同じ厚みで縁には樹脂を使用するが、外側に向かうほど薄く削り、縁には木材を使用。削り方でどのような音が出るか確認できる道具も自作した。「論理的な音作りは元プログラマーだからかもしれません」。楽器に思いを込めたいと細かい石や貝を埋め込んだ装飾にも妥協しない。

 ここ7年間、1日も休まず毎日5キロ走っている。全てギター作りのためだ。「ギター作りは体力勝負。死ぬまで愚直にギターを作り続けたいですね