広報ひらかた

市民登場 No.744

翻訳家・文化コーディネーター

片山 ふえさん

◆かたやま ふえ
 大阪外国語大学ロシア語科卒業。訳書に「まんまるパン」「8号室」や最新作のジョージア昔話「チンチラカと大男」、著書に「オリガと巨匠たち 私のウクライナ紀行」など。長尾元町在住。72歳。


 ロシアと国境を接するジョージアの昔話を絵本にした「チンチラカと大男」は最新作の訳本だ。絵を手掛けたのは絵本作家・画家として有名なスズキコージさん。「ビッグネームに最初は緊張したけれど、感性が合い私の訳に合わせスムーズに絵を描いてもらいとんとん拍子で完成したんです」と笑顔で話す。翻訳家デビューは28歳のとき。子育てに追われていたが「チャンスを前に子をおんぶしながら懸命に勉強しました」。ロシア語翻訳研究会を立ち上げ、30年間にわたりメンバー同士で翻訳技術を磨き続けてきた。「翻訳で大切なのは原作者の息遣いを生かすこと。美しい日本語に訳そうといった翻訳者のエゴを出さないように気をつけています」

 ロシア圏の文化に関心を持ったのは小学6年生の時、番組で見たオペラがきっかけだ。特に民衆が主人公のロシアオペラに魅了される。「勉強嫌いの私を心配した姉に成績が上がればオペラのレコードを買ってあげると言われた途端、成績が伸びました」。現地の文化を学ぶため、ロシアやウクライナを何度も訪れている。「ロシア文化には陰影があり、日本のわびさびに通じるものがあると思っています」

 自身の著書にも登場する親友がウクライナの首都・キーウに留まっている。「本当は逃げてほしいんです」。一方でロシアにも友人がいる。「どこに気持ちを持っていけば良いのか。言えるのは戦争はだめだということ。文化に罪はありません」

 自宅の古民家に国内外の芸術家を招き個展やコンサートを開催する活動も20年以上続けている。4月に開催したピアノリサイタルでは「NO WAR」とデザインされた絵葉書を販売し来場者に募金を呼び掛けた。「ささやかでも人の絆を作り、温かい気持ちになれる場を大切にしていきたいですね」